日本では,若手の研究者の研究を支援することを目的として,科学研究費助成事業の一環として,研究費(科研費)が国から与えられる。
しかし,この科研費は,かなり無駄遣いされている部分が多いと筆者は感じている。
ここでは,科研費について説明し,若手研究者の現状と科研費の使われ方について考えてみたい。
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目次
科研費とは
科研費は,研究者の研究活動を推進する目的でその事業は行われている。
種別としては,
- 特別推進研究
- 基盤研究(S・A・B・C)
- 挑戦的研究(開拓・萌芽)
- 若手研究
などがあり,それぞれの種別で多少目的が異なっている。
ここでは,特に若手研究者について議論したいので,若手研究を中心に述べる。なお,以前は若手研究にもA・Bとわかれていたが,平成30年度より若手研究のみとなっている。
この若手研究は,若手研究Aは基盤研究に統合し,従来の若手研究Bが現在の若手研究となっている。
若手研究も他の種別もそうだが,科研費の申請には複数年の研究計画書や研究能力(研究環境も含む)など,それなりに多くの書類を書かなければいけない。(若手研究の場合は12ページ)
この申請書類をもとにして,「実際に研究費を出してもいいか」厳正に審査される。若手研究でさえ,1件当たり500万円(通常は,値切られるので申請した額の6割ほどしかもらえないけど)の申請になるので,その審査はかなり厳正だ。その結果,若手研究の場合,30%程度しか採用されていない。
科研費も含めて,研究助成事業は大体このような審査を経て,支援が決定される。このような事業は競争的資金と呼ばれるが,大学や研究機関はこのような外部の競争的資金の獲得を推奨している。つまり,自分のところからは研究費は出したくない,ということだ。
また,研究者にとっても競争的資金の獲得実績は,その研究者の能力の評価の一部とされる。研究費を獲得するには,(それが実際に実施されるかどうかは別として),独創的なアイディアと実現可能な計画力が求められるので,そういった企画力がある,ということが評価されるのだと考えられる。
科研費と研究機関
さて,このように科研費は,研究者が汗水たらして,それこそ他の研究者と競争しながら獲得するものだが,そのお金は研究機関,つまりその研究者が所属する大学や研究所の管理となる。
研究費として支給するものだから,研究以外の目的で研究者が不正に使用しないように,研究機関がしっかりと管理する,というわけだ。予算の管理,ということで,そこには人的資源や時間等が必要になるため,間接経費が研究費とは別枠で研究機関に与えられる。つまり,研究者が申請して認められた研究予算(直接経費)とそれを管理するための予算(間接経費)が大学に振り込まれる,というわけだ。間接経費は直接経費の2割,つまり300万円研究費が支給される場合,60万円が間接経費として支払われる。
また,研究者が科研費でPCやカメラ,実験機材,本などを買った場合,それはすべて研究機関の備品となる。まあ,そうしないと転売なんかして,自分の利益にしてしまう研究者がいる,ということなんだろう。だから,研究機関は,研究者が科研費で買ったものなどもすべて管理しなければならない。ま,大体の場合は研究者に管理を任せている。
予算の使い切り
さて,科研費を3年の研究計画で取得した場合,その予算が使えるのは当然3年間である。その最終年度,多くの研究室で予算の使い切りが行われる。つまり,余ったお金を使い切るために,(必要のない)実験器具や実験材料,PCや文房具等を買いまくって,予算を0にするわけだ。なぜかこれ,多くの研究機関でやらなければならないことのようになっている。
理由としては,予算を使い切らなかった場合,面倒な理由書を書かなければいけない,今後の研究費が減額される可能性がある(これは毎回申請するので,本当にそうなのかは疑問だが),事務方が嫌がる,などがある。
筆者の知り合いの大学院生は,研究室の予算が80万円余って,その予算の使い切りを命じられたらしい。以前は,適当にPCなんかを買って,端数は学内の文具店等に「○○ぴったりになるように,消耗品を揃えてください。」と依頼ができたそうだが,研究費の管理が厳しくなり,そういうお願いができなくなったそうだ。となると,自分でいろいろと計算して使い切れるように(ぴったり0になるように),買物の計画を立てなければいけない。どのペンを買うだの,鉛筆を買うだのして,ちょうど0になるように頑張るわけだ。それで計画して購入したら,親切な業者が割引してくれたり。そんなこんなで大変なんだそうだ。
しかも,その研究室は,複数の研究費を抱えていて,つまり複数の財布があって,それぞれ0円にしなければならず,苦労しているらしい。彼はとても優秀な研究者なのに,彼の時間がこんなことのために使われていることは,非常にもったいないと感じる。
そして,もっともったいないのは,そのように無駄遣いとも思われるような使われ方をしているのは,国のお金,つまり税金だ,ということだ。研究がスムーズにすすむことで,研究費が余るというのはよくあることだ。むしろ,当初の予算より少ない金額で成果を出したのであれば,それは褒められるべきであろう。一国民としては,余った研究費は素直に国に返して欲しいとも思うが,どうもそれを良しとしない風潮はある。
若手研究者と科研費
博士の学位を取り,大学や研究所等で働き始めたばかりの若手研究者は,常勤のポストにつけるものは少ない。また,常勤のポストにつけたとしても,任期付きの契約が多いので,流動性が高い。
もし科研費を持っている若手研究者がA大学からB大学に移った場合,残った予算はB大学に移されるが,A大学で研究のために買った備品は,B大学に持っていくことはできない。先述べたように,科研費で買ったものはその研究機関のものであり,研究者の物ではないからだ。そうすると,同じ研究を継続しようとする場合,若手研究者はB大学で,A大学で買ったのと同じものを買わなければいけなくなる。そんなわけで,研究継続中に移動することになると,同じものを買ったりする都合上,それだけ研究費用がかかってしまう。研究者が買ったものもA大学からB大学の管理になるような制度でもあれば,持っていけるんだろうけど,現状は買いなおさなければならないのが実情だ。
そういう意味で,若手の研究者が研究を継続するのはとても大変だし,これも科研費の大きな無駄遣いだと考える。研究者はそれぞれ専門性を持っている。そのため,科研費を使って買う備品等も,それぞれの研究者で異なり,ほかの研究者が使わないような実験機材や材料,ソフトなども調達するし,中には高価なものもあるだろう(そのための研究費だ)。もし,上記のように研究者がA大学からB大学に移動してしまった場合,研究者がA大学で買ったものはA大学が管理することになるが,ほかの先生が使えない場合,その高価な備品は,ただのゴミとなってしまうわけだ。高価なものなので大学としても捨てるわけにはいかず,結局倉庫等を占有する粗大ごみとなってしまう場合も少なくない。
研究に使われるものは,特注で高価なものも多いため,これは非常にもったいないと感じる。
まとめ
ここまで,科研費について,筆者が「もったいないなあ。」と思うことを挙げてみた。
科研費は,国から支給されるものであり,元を正せば我々の税金である。それが効果的に使われるよう,制度を見直す必要があるのではないかと筆者は考えている。
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