大学教員への道

ポスドク

学振PDポスドク研究員についていままで書いてきたけど,博士課程に進学した,進学を希望している読者の多くは,大学の教員のポジションに就きたいと考えていると思う。著者もそうだった。

理由は単純。「自分のやりたい研究ができそうだから。」大学の教員は,夏休みも冬休みも春休みもある。さらに,常勤の先生だと,1限の授業がある日は少なくて,午後から出勤できる日もある。

ここでは,その大学教員になるための方法について,著者なりの考えを書いてみたいと思う。ちなみに著者は文系領域であることをあらかじめことわっておく。

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大学教員は実は忙しい

大学院に進学して,徐々に自分の指導教員が実は忙しいということを知っていくだろう。大学教員は,授業の準備もあるし,大学の運営の会議や資料作り,学会の委員などもやっていかなければならない。その上,外部から委託された仕事もあったりする。

学生からは見えづらい仕事が,実は結構なエフォートを占めている。大学教員の仕事は,「教務」,「大学運営」,「研究」,「その他外部の仕事」に大きくわけられると思う。その中で,研究に占めるエフォートはどれくらいなのか。著者は,これまでの仕事の関係で,いろんな先生の科研費の申請書を見ているが,研究に占めるエフォートの割合は,平均すると「20%」と記述してあるものが多いのではないかと思う。しかし実際のところ,大学の教員の仕事量は非常に多く,夜遅くまで研究室にいたり,土日祝日も大学にいたりする先生は少なくない。そして,多くの先生は仕事を持ち帰り,家でやっていたりもする。

それも踏まえると,大学教員は一般社会人平均の1.5倍は仕事をしているのではないか,そのうちの「20%」,つまり一般の人の仕事量のエクストラの部分で,研究を行っているのではないかと著者は考えている。大学教員は仕事の「時間」に対してではなく,「成果・業績」(というと語弊があるか?)に報酬が与えられている裁量労働制であるため,残業手当などもない。

大学の教員になるために必要な事の大前提

大学の教員がくそ忙しいということがわかっていても,多くの博士課程進学者は,研究がしたくて進学しており,自分の好きな研究(ばっかりじゃないけど)ができる大学教員は,魅力のある仕事であることは間違いないだろう。そのため(かどうかはわからないけど),博士課程を修了したばかりの者は,大学・短大・高専の教員の公募に対しても,自分がどんな研究をしているのか,これからどんな研究がしたいのか,ということに重点を置きがちである。実際,著者もそうであった。

それじゃ,ダメだ!

期間にして4年間,100件以上の公募に出し続けた著者は,やっとそう結論付けた。ここでは,主に4年生の大学の教員に応募する際の注意事項を述べるが,これは,短大でも高専でも同じだと考えて問題ないと思う。

まず,地方私立大学や都市部の弱小私立大学と,国公立・都市部のメジャーな私立大学では,求めている人材が違う。それぞれについて,著者が考える特徴と対策について述べよう。

国公立・都市部メジャー私立

国公立・都市部メジャー私立大学の公募は,激戦である。著者が書類を出した,ある私立大学の公募では,書類選考に落ちた時,お祈りの文章と共に,「今回の公募について,50件以上の応募があり,誠に残念ながら・・・」と書いてあった。公募によっては,応募数が100を超える,という話も聞いたことがある。この100人のライバルは,若手だけではない。論文業績が大量にあり,複数の長い講師歴もあるベテランも混ざっているのだ。

と,まあ恒例の脅しについては,このくらいにしておいて。では,このような国公立・都市部メジャー私立は,どのような人材を求めているのだろうか。簡単に言うと,まず自分の大学で研究を主体的に行なってくれる人に来てもらいたい。そしてその次に,授業も積極的に行なってくれる人材を求めている。

なので,まず最初に見られるのは,研究業績だ。公募により求められる人材は異なるし,求められる研究業績も異なる。一つ注意しておきたいのは,ここで言っている研究業績は,「著書」もしくは「査読付きの論文」であり,それ以外の学会発表やら修士論文やら何やらがどれだけたくさんあろうが,これはカウントされない。目安としては,査読付き5本くらいだろうか。もちろん,教授職だと10はないと厳しいだろうし,助教だと3本くらいでOKのこともあるだろう。いずれにせよ,公募の内容によって,それは大きく異なる。

そして,その次は,教育業績だ。非常勤講師などで,公募にあてはまる授業の経験があるか,その授業で,先生方が「おっ!?」と思うような工夫をしているかどうかが,決め手となる。その他,公募にのっていない条件もある(例えば,女性がいいとか,若い人がいいとか。実は,大学の教員は,男女比や年齢比が偏らないように文科省から言われている)。

国公立・都市部メジャー私立の公募では,大学が抱えているプロジェクトを推進する「特任助教」の公募も多くある。通常の公募は,教員に欠員が出たときに,それを補充するパターンで,これは任期があったとしても,3年目くらいに審査を行い,それに合格すれば任期なしの講師や准教授に昇格できる可能性がある。一方で,文科省のプロジェクトでお金をもらい,そのプロジェクトを推進するために特別な「特任助教」を公募することもある。この手の公募は,金の切れ目が縁の切れ目,つまり,任期が終わった後に,プロジェクトはほぼ終わっているので,昇格審査がないものがほとんどである。

地方私立・都市部弱小私立

先の国公立・都市部メジャー私立大学の公募が,比較的「研究ができる人材」を求めているのに対して,地方私立・都市部弱小私立が求めていることは大きく異なる。このような私立が求めているのは,「教育」の即戦力だ。大事なことなので,もう一度言おう,教育の「即戦力」だ。

これらの大学は,大学を「研究機関」としてみるよりも,「教育機関」として見ている傾向が強い。なぜかというと,まず学生が集まらないと,大学経営が成り立たないからである。「正直,あなたの研究成果や,今後の研究なんてどうでもいい。勝手にやってくれ。私たちが求めているのは,学生が食いついて,成長してくれる,そしてそれを外部にアピールして志願者が増えるような,そういう授業ができる人材だよ」という大学の意識が,面接などでは如実に感じられるのである。

ある年,著者はこの手の大学に,10件ほど公募を出して,4件ほど面接まで進めることができた。その前年度は,30件ほど出して,2件ほど面接に呼ばれたので,かなり面接まで進める可能性が高まったと言えるだろう。前年度と比較して,査読付き論文の業績が1本増えているので,その影響もあるだろうが,面接などでの感触では,それよりも教育方法や抱負に書いた内容がかなり効いていたことがわかった。

著者がどのようなことを書いていたかというと,

・とりあえず,公募する大学が重要視していることを褒める。
・それにのっとって,自分がいままでやって来た教育経験を少し盛って述べる。
・自分なりの工夫を述べる(教育好きな人が食いつくような内容)
・そちらの大学では,私の経験が活かせますよ!という感じでしめる。

重要なのは,「授業に積極的に参加しない学生のこともちゃんと考えてますよ!おたくの大学は,そういう学生ばかりでしょ!オレ,役に立つよ!」ということをアピールすることだ。

弱小私立とAL

地方私立・都市部弱小私立が課題として挙げているのは,学生の資格取得率,就職率などを高めることである。それを高めることで,入学希望者が増えると信じている。そのためには,学習効率を高める必要があるが,このような大学は,正直,学生が真面目にやってくれない大学が多い。学生が積極的に学んでくれるようになるにはどうすれば良いのか。キーワードとしてどの大学も挙げているのが,「アクティブ・ラーニング(AL)」である。ALは,平たく言うと,教員が講義して,学生がそれを聴く,というスタイルではなく,学生が主体的に学習できるよう,グループワークを多く取り入れたり,実習・演習形式で授業をしたりする方法である。

ALは,どの大学でも実践したいと考えており,実際に試行錯誤しながらそれぞれの大学が進めている。著者が面接まで進める確率が上昇したのは,自分のALの実践をアピールできた部分が大きなポイントであろう。

さて,このようにAL実践経験があることをアピールした著者は,面接で必ず以下のようなことを聴かれる。

「グループワークに参加しない学生や消極的な学生に対しては,どのようにアプローチしますか?」

この質問に正解はない。自分のいままでのアプローチの方法を述べて,さらに出来るのは,「まだ実践していませんが・・・」と前置きをして,「このようなことをやってみたいと思います。」というアピールである。いずれにせよ,ALについて,いろいろな知識を持っていることは,大きな武器になることは強調しておきたい。

大学運営に貢献できることを強調する

そして,もう一つアピールした方が良いのは,応募している大学に自分がどれだけ貢献できるのか,ということだ。少なくとも,大学のために,頑張っていこうという意識がある,ということだ。当然のことのように聞こえるかもしれないが,この姿勢が見えない応募者が多いのは事実である。大量の公募に書類を出し,「志望理由もくそもあるか!」,というのが正直なところだろうが,ここは我慢して,お話を作ろう。

また,大学の公募も一つのステップとしか考えておらず,自分の研究が出来ればよい,翻せば大学をよくするために何をしよう,などとちゃんと考えている応募者は,実は少ない。「○○大学の入学者」を増やすために,これまでその大学は,どのような努力をしてきたのか,自分はどのようなことができると考えているのか,このあたりをちゃんと調べてアピールすると,「研究や教育だけではなく(おそらく大学教員にとって一番重要な)大学運営のことも考えているんだな。」という印象を与えることができるのだ。

著者は,このあたりにも留意する内容を面接でもアピールして,結果,ある大学から内定をもらうことができた。具体的に何をやったのかというと,その大学の面接では,模擬授業を実施することを求められた。与えられた授業時間は20分だが,通常の授業でやるように,15回の授業をどのようなプロセスで行なうのか,授業の冒頭で説明した。つまり,その20分を凌ぐ授業を準備したのではなく,半年分の授業の準備をして,その概要も示したわけだ。また,その後の面接で,反転授業の導入を提案した。そのために何が必要か,学部として何をしていかないかということも議論して,一定の反応を得ることができた。言い換えれば,「自分が担当する科目の計画,大学運営について,こんなに真剣に考えてますよ!」ということをアピールしたわけだ。このあたりが,面接突破の決め手になったのではないかと考えている。

これらのことは,言われてみれば当たり前のように聴こえるかもしれない。それでも,これらの準備をしていなかったら,面接のあとに「いける!」と思っていても,残念な結果になることの方が多いだろう。

面接で聴かれること

1件の募集に対して,10件から100件の応募が届き,その中から3~5名程度が選抜されて面接に呼ばれる。応募書類の書き方は,ネット上にも情報は大量にあるだろう。それは,その人たちにゆだねておいて,ここでは面接で聴かれることをちょっとだけ羅列しておく。

・「志望理由を教えてください。」

「ぶっちゃけ,志望理由もくそもないわ!受かればどこでもええんじゃ!」という気持ちを隠しながら,これに答えていく。その大学が,どのようなことに力を入れているのか調べて,それに共感した,自分はその中でこのようなことがしたい,ということを答えると良いのかな。

・「これまでの研究を教えてください。」

これは比較的答えやすい。自分の研究を紹介すればよい。特に,公募内容に合わせて,アピールしたいポイントに力点を置いてしゃべるのがポイント。割と時間をかけてよいし,今後どのような研究をしたいのか,ということもアピールしても良い。ただし,弱小私立は,あなたの研究にはなから興味がないことも多いので,その場合はここで熱く語りすぎない方が良い。

・「教育する上で,心掛けていることを教えてください。」

弱小私立は,これがポイントだったりする。著者のおすすめはALを推すことである。その結果,先に述べたように,「グループワークに参加しない学生や消極的な学生に対しては,どのようにアプローチしますか?」という追加質問がくる。

まとめ

とりあえず,弱小私立を中心に,そこの教員になる方法について著者なりの考えを書いてみた。少しでも参考になったなら幸いである。

ってかさ,あとがない状態で,大学の教員になろうと思っちゃいかんよ。その辺のことはまた後で書くけど,大学の教員はやっぱり競争率がバカ高い。博士課程っていうのは,就職をしたり,自分で仕事をしているなど,大学教員以外の道を確保できた人が行くべきものだと著者は考えている。

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