普段の生活で,普段からよく知っている人は印象が良い,ということがある。
当然のことながら,何かを一緒にするとき,まったく知らない人よりは,知っている人と一緒の方が,安心感がある。
特に話したことがないような人であっても,良く見る顔であればその人の方が印象が良い,という実験もある。
今回は,その実験について紹介する。
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単純接触効果
ザイアンスは,トルコ語を知らない72人のアメリカ人を対象に,トルコ語で書かれたカードを読み上げてもらう実験を行った。(http://www.morilab.net/gakushuin/Zajonc_1968.pdf)
ザイアンスは七文字のトルコ語(『IKTITAF』,『AFWORBU』,『SARICIK』,『BIWOJNI』など)が書かれているカードを12枚用意し,カードを一回につき約2秒間提示する実験を行った。
そのとき,実験者がトルコ語を発音し,その発音を参加者にも行うように求めた。
この実験にトルコ語が用いられたのは,単語の内容が好みに影響を与えないようにするためである。
実験は,12枚のカードを参加者によって,特定の単語が0回,1回,2回,5回,10回,25回呈示するようにして,合計86回単語を呈示した。そして,提示した後にそれを実験者が発音し,参加者も発言するように求めた。
最後に,各単語の好感度を7段階で評定させた。
その結果,提示された回数が多ければ多いほど,各単語に対して「良い意味だろう」と評価されることが確認された。
ザイアンスは,「ただ単に目にする回数が増えるだけで,それに対する好感度が高くなる」ということを証明しようとした。これを単純接触効果という。
たくさん目にしたから?それとも読みやすかったから?
しかし,ザイアンスにはある疑念があった。
「さっきの実験は,単に目にする回数が多いから好感度が上がったのか?それとも何度も読むことで,読みやすかった(発音しやすかった)から,好感度が上がったのか?」
これを確かめるために,ザイアンスは,英語圏の大学生にトルコ語の単語のリストを見せて,その発音のしやすさと好感度の高さについて実験を行った。
その結果,読みやすい単語の方が,良い意味を持つだろうと参加者は評価した。
つまり,さっきの実験では,読みやすくなったから好感度が高くなった,という可能性を否定できなくなってしまったわけだ。
漢字をつかった実験
そこでザイアンスは考えた。
「読みやすい(発音しやすい)ことが好感度に影響するのなら,発音できない言葉を使って実験すれば,単純接触効果を証明できるのではないか?」
そこで使ったのが,漢字である。
ザイアンスは,アメリカ人には発音できないであろう漢字を使って,前と同じような実験を行った。
トルコ語と違い,アルファベットを用いない漢字は,参加者は頭の中で発音することすらできない。
この「漢字をつかった実験」に至るところが,ザイアンスのすごいところ。
実際に,ザイアンスが使った漢字はこんな感じ。
日本人でも,なんて書いてあるか読めない。。。
まあ,これで,同じような実験をしたところ,やはりたくさん見た感じの方が良い意味を持つと思われた。
ここで,やっと「単に目にした回数が多いものの方が,好感度は高くなる」という単純接触効果について,証明できたわけだ。
顔の印象と単純接触効果
ザイアンスは続けて,男性の顔写真でも同じような実験を行った。
その結果,男性の顔写真でも,漢字と同じように単純接触効果が確認できた。
しかし,この実験では,単純接触効果が顕著にでる写真と,そうではない写真があった。
写真を見た時,ヒトは様々な印象を持つ。
この実験の結果は,単純接触効果と,その写真の印象,両方が影響する結果なわけだ。
合計12枚の写真を使って実験した結果,単純接触効果の影響が出たのは9枚の写真で,
残り3枚の写真は,接触頻度に関係しない評価だった。
別に,最初にみた印象が悪いから,悪いまま。
最初にみた印象が良いから,良いまま。
というわけではないけれど,写真によっては,単純接触効果が表れないものものある,というのは重要な事だろう。
まとめ
たくさん目にしたものを好きになる,単純接触効果について解説してみた。
実際,ザイアンスが示した単純接触効果は,現在も多くの研究がなされている。
例えば,ヒトの写真を見せる時,どこのパーツが重要なのか。
目の部分など顔の一部分を隠しても,単純接触効果が見られるのか?
などなど,研究者の興味をいまだに惹いている研究でもある。
詳しくは,Google Scholarなどで調べてもらうと良いと思う。
それでは,家族などに対する好意も,単純接触効果で説明できるのか?
と言えば,それはきっと違うと筆者は思っているけど,
それはまた,別の記事で。