社会的促進と社会的手抜き

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他者がいると,援助行動が抑制される傍観者効果について説明したが,他者がいるとヒトの行動には様々な変化が起きる。

例えば,—人前で演奏するときにいっそうの力を発揮する音楽家もいれば,緊張して十分に力を発揮できない音楽家もいる。あるいは,誰かと—同じ部屋で作業すると,仕事がはかどるときもあるし,はかどらないときもある。

実際に他者がいるとパフォーマンスはどのように変化するのだろうか。
それについてみてみよう。

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社会的促進

—トリプレットは,他者がいることでパフォーマンスがどのように変化するのか,簡単な実験を行った。
実験は,参加者に釣糸をリールに巻き取る作業をしてもらう,という単純なものだ。
ただし,—1人で巻く条件と2人巻く条件をもうけた。

結果は,どうなったか。多くの人が予想するように,2人条件の方が1人条件よりも早く巻き取った。
つまり,競争することで,パフォーマンスは向上する,ということだろうか?

—社会心理学者のオルポートは,単純な作業では能率は上昇するが,複雑作業ではむしろ下降することを示した。
他者がいることでパフォーマンスが向上する現象をオルポートは社会的促進(social facilitationと呼んだ。そして,これは単なる競争心の現れだけでは説明できないと考えた。(Allport 1924 Social psychology. Houghton-Mifflin)

もし,単なる競争心の現れだけであれば,他者の存在によりパフォーマンスが向上することは説明できるが,実際には低下する現象も多く観察された。

—ザイアンスは,他者の存在が個体の生理的な水準を高め,その時点で行っている作業で優勢な反応を生じやすくさせるためであるとした。—つまり,得意なことはパフォーマンスがより向上し,苦手なことはパフォーマンスがより低下すると考えた。それぞれの人の習熟度によって,社会的促進が見られたり,見られなかったりするとザイアンスは結論付けている。(Zajonc 1965 Social facilitation. Science, 149, 269-274.)

社会的手抜き

他者と競争している時ではなく,協力して何かをしようとするとき,ついついその他の人に任せて,手を抜いてしまうようなことはないだろうか。

インガムらは,実際にそれを実験的に表している。

—インガムらは綱引き実験の実験を行った。—本当の実験参加者は,一番前で綱をひき,その後ろには,実際には力を出していないサクラを配置した。

「せーの!」の合図で,参加者には綱を引いてもらう。本当の参加者は一番前で引っ張っているので,後ろのサクラがどれくらい一生懸命引っ張っているのかは,わからない状態だ。

そして,—サクラが力を出さないことを知った条件と知らない条件とを比較した。

その結果,—1人で引いていることを知っている時の方が,強い力で引いていた,というものだ。(Ingham et.al. 1974 The Ringelmann effect: Studies of group size and group performance. Journal of experimental social psychology, 10, 371-384.)

—このインガムらの実験の結果は,他者の存在が,参加者の努力量を減少させた結果と考えられる。他者が存在する場面で1人当たりの作業量が減少する現象を社会的手抜き(Social loafing)という。

実は,この現象は,リンゲルマン効果(Ringelmann effect)として有名であった。20世紀初頭のフランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマンは綱引きや石臼を回すなどの集団作業時の一人あたりのパフォーマンスを数値化した。その結果,1人の時の力の量を100%とした場合,2人の場合は93%,3人では85%,4人では77%,5人では70%,6人では63%,7人では56%,8人では49%と1人あたりの力の量は低下した。この集団が大きくなるほど集団全体のアウトプットと個人のアウトプットの合計の差は拡大することをリンゲルマン効果(Ringelmann effect)という。

ただし,リンゲルマン効果の場合,参加者はみな「100%」の力を出したと主張する。つまり,無意識的に手を抜いていた,ということだ。
インガムらの実験は,さらに「他の人が一緒にやっているか,知っているか否か」でも差がでることを見出している。この意味で,リンゲルマン効果と社会的手抜きをわけて考えることもある。

—では,この社会的手抜きは,なぜ起こるのだろうか。
実際,他者と一緒に作業をすると,個々人の努力量を評価することが難しくなり,1人1人の仕事が評価されるという懸念が低下する。逆の言い方をすれば,—頑張っても評価されづらくなり,さらに—成果が低くても責任回避ができる状況になる。このことから社会的手抜きが起こると考えられるが(Williams, Harkins, Latane 1981 Identifiability as a deterrent to social loafing: Two cheering experiments. Journal of personality and social psychology, 40, 303-311.),これは傍観者効果の責任の分散とメカニズムと似ている部分が多い。

まとめ

では,実際,社会的促進を起こして,社会的手抜きを最小限にするには,どうすれば良いのだろうか。

—社会的促進のメカニズムを考えると,単調な作業や各メンバーが慣れている作業は,みんなで一緒にやった方が効率が良いと考えられる。単調で面倒くさい作業は,みんなで一緒に片付けてしまえば,社会的促進の効果が期待できるということだ。

逆に,—複雑な作業や慣れていない作業では,効率が悪くなることも考えられる。

—実際には,チームなどで仕事をする場合は,そんな単調な作業ばかりではない。
そんなときは,各個人の努力が評価できる形が望ましい。

先ほど述べたように,社会的手抜きは,個々人の努力量を評価することが難しくなり,1人1人の仕事が評価されるという懸念が低下したときに起こりやすいと考えられるからだ。

例えば,—ブレインストーミングや分業などは,誰がどのような発言をしたのかがわかるため,社会的手抜きが働きにくいと考えられる。

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