いままで学振PDについて,ポスドクの研究員について,そして大学の教員になる方法について説明してきた。ここでは,「アカポスに就く」ことを一応のゴールとして,大学院生時代にやっておくべきことを書いてみる。
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業績を増やす
業績を増やすことは,言わずもがな,であるが,一つ注意点がある。それは,jrec-inでよく見かける募集内容に合致する業績を増やすことである。
たとえば,心理学関連だと,産業心理学,人間工学,感性工学,自動車運転における認知,福祉系や教育系,保育系,公衆衛生学などの募集も関連する。
著者は,学振PDや科研費などの大型プロジェクトの研究員,大学の特任助教は,「下積み」としてとらえている。その前に,大学院生時代もあるわけだが,この頃は,自分の専門となる研究しかしない人も多い。
しかし,大学院生時代にやる「自分の専門とする研究」は,逆に言えば「誰もやっていない研究」である。それを極めることも重要ではあるが,それだけしかやっていないと,公募の条件に答えることはできない。
学生時代・下積み時代に,自分がファーストじゃなくても良いので,jrec-inでよく出てくる公募にこたえられるような業績を積んでおこう。博士課程に入る前から,公募の条件については,よく調べておいた方が良い。
なぜなら,jrec-inなどに出ている公募条件は「○○の科目が担当できること」というものが多いからだ。この科目名は汎用的な科目名であることが多い。
当然,自分の専門領域はどれかの科目名には少しは引っかかってくるだろうけど,その科目のど真ん中を研究している人は少ないだろう。そのため,他の先生と協力して,ある科目のど真ん中を貫くような業績を持っていた方が良い。
コネを広げる
これも博士課程の院生時代,下積み時代にやっておくべきことである。これは「縁」なので,自分の思い通りにできるわけではないのだが,コネを広げて損はない。
先にも述べたとおり,学会などで自分が進みたい分野(専門分野だけじゃないよ!)の偉い先生などに質問したり,自分の研究に意見をもらったりしよう。また,非常勤やTA,研究のお手伝いなどの募集を見かけたときには,積極的に乗っかっていこう。お金は二の次,まずは自分の顔と名前を多くの先生に知ってもらうことが重要である。
なぜ,コネを広げることが重要なのか。
大学の教員や研究員の募集は,公募という形を一応は取っているが,実際にはそうじゃない場合も多い。
博士課程の院生だったら「ガチ公募」というワードを聴いたことがある人もいるかもしれない。これは,「ガチで送られた書類や面接で決める公募」のことである。
「ガチ公募」というワードがあるのだとしたら,ガチじゃない公募も当然あるわけだ。嘘か本当か,世に出回っている公募はガチじゃない公募が半分くらいあるという。
大体書類や面接で,応募者の人となりがよくわかるわけではない。可能であれば,人となりをよくわかっている人に来てもらえる方が,採用する側としては安心だ。しばらく一緒に仕事をしたことがある人ならなおさらそうだろう。そういう意味でも,ガチじゃない公募にのっかるためにもコネを広げておいた方がいい。知り合いの先生が公募を出すときに,採用されやすくなるのはもちろんのこと,その先生の知り合い(つまり知り合いの知り合い)が公募を出すときにも,強くプッシュしてもらえる可能性だってある。
非常勤講師の経験を積もう
教育業績は,先に述べたように,地方私立・都市部弱小私立のポストを得る上では,非常に重要な要因である。非常勤講師を受け持ち,そこでさらにALを自分なりに実施することができれば,その後の就職活動では圧倒的に有利な立場に立てるだろう。
先に述べたように,公募戦争はコネも重要だ。非常勤で仕事をしたとき,非常勤先の先生方と親しくなっておけば,そこにも強いコネを作ることができるわけだ。
非常勤講師は,教育経験とコネをつくるために,とても重要な経験となる。
しかし,非常勤講師であっても,レポートを添削することが多い。ということは,客観的な業績から,レポートを書ける,添削できる,という証拠が,非常勤講師に採用されるために必要となる。その証拠として,紀要でもよいから,何かしらの論文業績が必要となる。できれば,修士課程の間に紀要業績くらいは持って,博士課程の初期の段階で非常勤講師の経験ができれば良い。
当然,博士の1年目には査読付きの業績を持っているだろうから(持っていないとやばいと思った方がよい),博士課程の時代は非常勤と研究との二足の草鞋を履くことになるだろう。
科研費・PD・DCに応募しよう
「お金をとろう!」ということではない。もちろん,研究費があれば,研究を進める原動力にはなるが,「科研費を取った」ということも一つの業績だ。科研費は,大学が管理するので,その一部が間接経費として大学にもお金が入る。これは微々たる額だが,大学側にとってはありがたい話だ。
しかしそれよりも重要なのは,これに申請することで,今後の研究を方向付けることができるという点だ。いま目の前の研究の先の研究計画,この研究がどのように社会に貢献できるという大義名分を持てるのか,先行研究でどこまでわかっているのか,など,頭を整理したり,今後の研究をよく考える機会になる。
ダメもとでも良い。そもそもPDやDCは勝てる見込みが非常に低い。科研費・PD・DCは,申請書類を書くことに意義がある。下積み時代には,PDや科研費の書類をガンガン書いて,上司や先生にバンバンダメ出しをしてもらおう。文章の書き方から研究に対する考え方まで,かなり成長するはずだ。また,学生時代にDCの書類も書いていこう。もし読者が修士2年生なら,DC1にも出してみるべきだ。もしかしたら,お給料をもらいながらの学生時代が送れるかもよ!
必要な資格やスキルを身につけよう
公募には,「最低限必要なスキル・資格」が求められるものもある。
たとえば,高齢者の研究を主にやっている人ならば,関連する領域でいえば,社会福祉士養成の助教の公募が多くある。社会福祉士養成のために有利な資格と言えば,社会福祉士国家資格,社会福祉士相談援助演習を指導するための講習を終えていること。一応,現場で社会福祉士としての仕事の経験もあるとベターだが,これはストレートで大学院に行っている人はちょっと無理なので(もちろん,この仕事をしながら博士課程に在籍しても良いが),先の2点を学生時代に修めておけばよい。社会福祉士は通信の専門学校に通えば取得することができるし,指導するための講習は,社会福祉士の資格が必須ではないので社会福祉士の資格取得と並行して受講することもできる。
このように,領域によって求められる資格・スキルは異なるだろう。たとえば,工学系の助教であれば,情報系の演習をすることが多いため,「CADが使えること」,「プログラミングが教えられること」が必須条件に入っていることが多い。研究の中でCADを使い,それを紀要でも論文にできれば,一応客観的な証拠となる。保育の実習であれば,「保育士資格」が必要になる。保育士資格は,専門学校に通ったりしなくても取れる資格なので,関連領域に応募する可能性があるなら,とっておいた方が良いだろう。また,地方では普通自動車免許が必要になる公募もある。
いずれにせよ,自分が公募の条件にマッチするように,早い段階から(博士課程在籍中から),準備しておくのは必要であろう。博士課程は特に自由に使える時間が多くあるから,実務経験を積むことも不可能ではない。これが下積み時代に入ってしまうとできなくなってしまうから,なるべく早く進めた方が良いだろう。
まとめにかえて
ここまで,博士課程修了後の進路をいくつか挙げ,その公募への著者なりの対策を述べてきた。これを慨すると,「公募の条件に合う研究者になりましょう!」ということだ。
博士課程在籍中は,自分が進めている「誰もやっていない研究」で独自性を追求していくとともに,「こんなこともできます!」という一般性も必要になってくる,ということだ。
しかし,公募は多くの場合,1名しか募集しない。応募された人たちの過酷な競争の中で,「1位」の人のみが採用される。「2位じゃダメなんです!」
では,1位になるためには,どうしたら良いのか。先に述べたことと矛盾するようではあるが,そこには独自性が必要になる。たとえば,他の先生が実施していないようなALを実施したことをアピールする。また,関連領域に応募する資格を満たしており,なおかつ自分が専門とするアプローチもできますよ,というのは,有利な独自性になりうる。採用の基準は公募によって異なるが,関連領域の公募に応募することも1位奪取可能性を高めることにつながるかもしれない。正攻法で行くならば,誰よりも大量に研究業績,科研費などのお金を取った業績を積めば,1位になれる可能性は高くなるだろう。実際,これまで触れなかったが,独立行政法人の研究者やPDになるには,この正攻法以外の道はない。自分が公募の条件にマッチするように,博士課程在籍中から準備しておく,というのはある意味蛇の道かもしれない。
ここまで書いておいてなんなんだが,もし,読者が博士課程に行くかどうか悩んでいる修士の学生ならば,著者は間違いなく就職することを勧める。就職して,仕事をしながら,もし博士課程に行きたければ,働きながら博士号を取得すれば良いではないか。わざわざ,背水の陣を引いて,あとがない状態で,この過酷なアカポスの戦争に身を投じるメリットは,まずないと考える。就職して,社会人学生として博士課程を修了し,余裕がある状態でアカポスの公募を探せばよい。就職することのメリットは他にもある。たとえば,分野によっては「実務経験」が有利に働くことも少なくない。保育経験があれば,保育士の実習担当の助教に採用される可能性も高くなるだろうし,カウンセリング経験が長ければ,臨床心理学を専門とする助教に就く可能性も高くなるだろう。
少子化が進み,18歳人口はどんどん減っている。いままでは,大学への進学率が上昇していたため,大学進学希望者数は変化が見られなかったが,今後大学進学者数は減ることが予測される。この問題については,大学の強みを考えるに書いた。
そうすると,大学側は定員を絞り込み,結果として大学のポストは減少していくだろう。団塊の世代は,ほぼ定年を超えており,これから大学教員がたくさん引退する,ということはあまりないだろう。となると,今後公募が減っていくことが予想され,アカポスを獲得することはさらに厳しくなることが予測される。
一方で,少しポジティブな情報もある。大学院まで進学する者の絶対数が減少しているのだ。つまり,読者のライバルが減っている,ということだ。
たしかに厳しい戦いだし,どの公募も10倍以上の倍率になるだろう。ストレートで博士課程まで進学してしまった人には,同情してしまう。しかし,あきらめなければ可能性はある。ビールを片手に書いたこの文章が,読者が見事アカポスを獲得することの一助になれば,幸いである。
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